要約
- イランのピクニック文化は、自然との深い対話を象徴し、
都市の喧騒から離れて家族の絆を強める重要な生活の一部となっています。 - シズダ・ベダル(新年の締めくくりの日)は、自然を敬い豊穣を祈る祭りであり、
古代ペルシャ時代から続く伝統が現代にも生きています。 - イランでは、絨毯を敷き家族全員で自然の中で食事をするピクニックの習慣が、家族の絆と自然への敬意を象徴しています。
- 日本でも「お花見」や「遠足」など四季を楽しむ文化があり、
地域ごとの食文化を体験する機会となっています。 - イランのピクニックが広がった背景には、
豊かな自然環境、家族中心の価値観、季節ごとの最適な気候が寄与しています。
イントロダクション

イランの街中を歩いていると、遥か遠くから聞こえてくるのは、
笑い声と会話、そして自然の調べ。
道端、公園、川のほとりに広がるカーペットの上で、
家族や友人たちが食事を楽しむ姿は、まるで一枚の生き生きとした絵画のようです。
イランのピクニック文化は、単なる野外での食事ではなく、
人々の生活に深く根ざした自然との特別な対話なのです。
都市の喧騒から離れ、青空の下で繰り広げられるこの日常的な祝祭は、
家族の絆を強め、心に安らぎをもたらす、かけがえのない時間となっています。
世界中の多くの文化と比べても、イランのピクニック文化は特に際立っています。
公園、道路脇、砂漠まで、文字通りどこでも、
人々は自然を楽しむ準備ができているかのようです。
このピクニックへの情熱は、単なる習慣を超えて、
イランの人々の生活哲学そのものを映し出す鏡のようなものなのです。
世界のピクニック

ピクニックの概念は世界中で親しまれていますが、
その形や意味合いは地域ごとに異なります。
ヨーロッパでは、18世紀末にフランスでの革命後、
ピクニックは貴族だけでなく一般市民にも広まりました。
当時のピクニックは贅沢なもので、
カトラリーや食器をきちんと用意し、料理を持ち寄るのが主流でした。
特に、自然の美しい田園地帯や森の中で行われるピクニックは、
日常の喧騒を離れたリフレッシュの場として人気を集めました。
また、イギリスやアメリカでは、自動車の普及に伴い、
遠出をして自然の中で気軽に楽しむスタイルが一般層にも広がり、
ピクニックは日常のレクリエーションとして定着しました。
一方、イランでは、ピクニックが日常生活の一部として深く根付いています。
公園や川辺、さらには道路脇でも家族が集まり、
ピクニックを楽しむ光景が見られるほど、身近で重要な活動となっています。
このようにイラン人にとってピクニックは、
自然への敬意だけではく、共に家族の絆を育む場としても機能しています。
その背景には、自然を愛する文化や家族中心の価値観が強く影響しています。
例えば、祝祭日や特別なイベントの際には、
広い絨毯や布を敷き、伝統的な料理を持ち寄ることで、
家族や友人と過ごす時間がより特別なものとなります。
このようなピクニック文化は、都市部でも地方でも広く見られ、
人々の日常生活に深く根付いているのです。
イランのピクニックに関する歴史
イランでのピクニック文化は、
驚くべき3000年以上の歴史を紡ぐ、壮大な物語のようです。
古代ペルシャ時代から続くこの伝統は、単なる食事以上の
自然との深い精神的な対話を象徴しています。
「シズダ・ベダル(Sizdah Bedar, Persian: سیزدهبدر )」と呼ばれる春の祭りで見られる風景は、
特に象徴的な瞬間です。
この日、イランの人々は新年(ノウルーズ; Nowruz)の締めくくりとして、
家族で自然の懐に身を委ねます。
草花を大地に返す儀式は、自然との調和を祈り、
次の年の豊かさと幸運を祈念する深い精神性を秘めた行為なのです。
シズダ・ベダルの様子は、以下の動画から見ることができます。
How Persians Celebrate Nature’s Day / Sizdah Bedar | 13 bedar #shorts – YouTube

古代から受け継がれてきたこの伝統は、
自然を単なる風景としてではなく、生命の源、祝福の象徴として尊重する、
イラン文化の根幹を成しています。
特に「シズダ・ベダル」の日は、祖先たちが雨の神を崇拝し、
豊穣と恵みを祈った古代の儀式を彷彿とさせます。
雨の神「ティル(Tir)」への崇敬の念は、自然の恵みへの深い感謝の表れであり、
この日に人々が野原や川辺に集い、踊り、歌い、自然と一体となる様子は、
まるで古代の精霊たちとの対話のようです。
イランのピクニックスタイルは、その伝統的な精神を見事に現代に継承しています。
絨毯やソフレ(画像)を地面に敷き、その上で食事をする独特の習慣は、
自然との直接的なつながりを象徴しています。
伝統的なハーブティー、新鮮な果物、風味豊かなヨーグルト料理が並べられ、
家族全員が一つの布の上に集まります。
靴を脱ぎ、地面に座り、互いに料理を分かち合う様子は、
イラン文化における家族の絆と もてなしの精神の美しい表現なのです。
この伝統は、現代のイランにおいてもなお生き生きと息づいています。
都市生活が進む中でも、週末や祝日には、
家族や友人たちが公園、川辺、山間部へと集まり、何世紀にもわたって継承されてきた儀式を繰り返します。
現代のイラン人にとって、ピクニックは単なるレジャーではなく、
祖先の知恵を体現し、自然との絆を再確認する、神聖な儀式なのです。
テント、カーペット、シーシャ(水煙草)、クッション、毛布など、
豊かな道具を携えて自然の中に繰り出す彼らの姿は、文化の連続性と、
自然を尊重する深い哲学を雄弁に語っています。
日本におけるピクニック
野遊びや 肱つく草の 日の匂ひ, 大須賀乙字
野遊の 帰りの話 風に飛び, 上野泰

日本では、ピクニックは「お花見」など、
四季折々の自然を楽しむ活動として広く親しまれています。
古語においてピクニックのような「春の山野で遊んだり、飲食を楽しんだりすること」は、
「野掛け」・「野遊び」と呼ばれ、俳句や古典にたびたび登場します。
現代では、多くの人々が公園や河川敷でシートを広げ、
弁当や飲み物を囲んで楽しい時間を過ごします。
この習慣は、江戸時代までさかのぼり、
自然とのつながりを大切にする日本人の価値観が反映されています。
春は桜だけでなく、新緑の息吹を感じながら家族や友人と自然を満喫できる季節です。
遠足の形式で行われるピクニックは、
子どもたちの教育の一環としても位置づけられ、
自然環境について学ぶ貴重な機会となっています。
また、山菜や季節の食材を使った弁当が用意されることも多く、
食文化を体験する一助となっています。
また、日本では季節ごとに異なる風景を楽しむためのピクニックが多く、
紅葉の秋や梅雨明けの夏にも行楽地でピクニックを楽しむ姿が見られます。
食べ物も日本独特のものが多く、
おにぎりや果物、季節の野菜を使ったおかずなどが主流です。
これにより、地域ごとの食文化を体験する場としての役割も果たしています。
冬には寒さを楽しむ工夫として、
熱いお茶や温かいスープを携えて行うピクニックも見られます。
雪景色の中で味わう食事は、
季節感をより一層高めるもので、日本ならではの情緒を感じさせます。
このように、四季折々の自然を活かした日本のピクニック文化は、
豊かな食と自然の融合を象徴するものと言えるでしょう。
なぜイランでピクニックが流行したのか
イランでピクニックがこれほど広がった理由には、
豊かな自然環境と深い社会的価値観が挙げられます。
イランは広大な自然に恵まれており、
公園や川辺、さらには砂漠地帯に至るまで、ピクニックに適した場所が多く存在します。
特に、ナウルーズ(新年)の時期には家族全員で自然の中に出かけ、
新しい一年の始まりを祝いながら絆を深めるのが一般的です。
また、イランの文化では、
家族と共に過ごす時間が最も重要とされており、ピクニックはその象徴的な場となっています。
親しい人々と共に食事を楽しみ、歌や踊りで盛り上がることは、
生活に喜びを与えるだけでなく、世代を超えた伝統の継承にもつながっています。
さらに、イランの気候もピクニック文化の広がりに寄与しています。
夏は涼しい山間部や木陰、冬は温暖な南部の砂浜など、
季節ごとに最適な場所が選ばれるため、一年を通じてピクニックが楽しまれているのです。
また、ピクニックは単なるレジャーではなく、自然との共生の象徴でもあります。
イランでは「シズダ・ベダル」と呼ばれる祭りがあり、
この日には自然を敬い、草木を川に流すことでその恵みに感謝します。
このような文化的背景が、
ピクニックを家族や友人との絆を深めるだけでなく、
自然への感謝を表現する重要な活動へと昇華させているのです。

参考文献
きごさい歳時記(NA)「野遊(のあそび) 晩春」(https://kigosai.sub.jp/001/archives/712, 2024/12/17 アクセス).
Surfiran (2/9/2024 updated) Sizdah Bedar: A Joyful Persian New Year Tradition (https://surfiran.com/mag/sizdah-bedar/, Accessed on 17/12/2024).
キリンホールディングス(NA) 「ピクニックとは社交である~東京ピクニッククラブの取材を通して~」(https://wb.kirinholdings.com/future/hint/05.html, 2024/12/17 アクセス).
Saadatrent(21/5/2024 updated) What is the History of 13 Bedar? (https://www.saadatrent.com/english/article/sizdeh-bedae-iran, Accessed on 17/12/2024).